
English Garden
ウォーキング
散歩の途中のファームショップで買ったりんご。コックスではありませんが、やはり地元で採れるりんごです。
息子の学校もはじまり、イングランドで過ごす4度目の夏もいよいよ終わりです。 イングランドの夏というのはまことに爽やかで、とくにここサセックスあたりでは晴天の日も多く、 迎える夏ごとに、また来年もここで夏を過ごすことができますようにと 願わずにはいられないほどに快適なのです。 今回は夏のイングランド・カントリーサイドへの旅をご紹介しましょう。
たとえばロンドンから列車で1時間ほど郊外の駅からバスでしばし揺られたあたりの 小さなビレッジにあるB&B※に泊まるとします。早めに軽い夕食を済ませ散歩にでかけてみましょう。 カントリーサイドではどこにでも、パブリックフットパスと呼ばれる遊歩道を簡単に見つける事が出来ます。 この国では古くから“public right of way”という歩く人の権利がよく守られていて、 たとえ私有地の中だろうとこの権利を妨げることはできないのです。 よく手入れのゆきとどいた“イングリッシュガーデン”の庭先をいくつか通り過ぎ、 ステイルという羊など人間以外の動物が行き来できないように工夫を凝らした 面白い形のゲートをいくつか越え、羊や牛が草を食む広い野原のなかを歩き、 茂みを通り抜け…フットパスはどこまでも続きます。 この野原や茂みは主に牧草地として利用されているのですが、 これがまたよく人の手が入っていてとても美しく保たれています。 ここでもイギリス人のガーデンと同じく、自然の環境を上手く活かし人間の感性に 心地良い風景に造り変えてしまうという仕業が際立っています。 こうしてカントリーサイドを歩いていると、この国の国土全体がひとつの大きなガーデンのように思えてきます。
目立ちませんがカントリーサイドではすぐに見つけることのできるサインです。
黄色い矢印は歩く人のみのためのパブリックフットパス。青い矢印は馬と自転車も通れるブレイダルウェイという小道です。
そして同じように散歩しているイギリス人に出逢うでしょう。 “ウォーキング/歩く”ということが、この国ではガーデニングとならんでもっとも ポピュラーな趣味の一つになっているのです。カントリーサイドを歩くことで、 彼らは自分達が暮らす環境のこと、先祖たちが歴史のなかで守ってきたもの、 これから自分達が後の世に残すべきものなどをこの風景のなかに見い出しているのかもしれません。 ここでは“歩く”ということもなかなか奥の深い時間の過ごし方のようです。 そして彼らはたとえこんな辺鄙なところで遥か遠い国からやってきた日本人に出逢っても、 まったく驚きません。しずかに微笑んですれ違うのがここでは日常なのです。
低くなった太陽はなかなか沈まず、地平線近くからいつまでもカントリーサイドの 風景をみごとに照らしてくれます。時間はたっぷりあります。 のんびり歩いて9時半頃までにビレッジへと戻りましょう。どんな小さなビレッジにもパブはあります。 ピンクに染まるカントリーサイドを眺めながらビールを一杯。小さなビレッジのパブには、 たいてい地元で醸造されたエールとよばれるいわゆる地ビールがあります。 生温くて泡もたたないといわれるあれです。口をつける前に周りの人たちの飲み方を少し観察しましょう。 のどを鳴らしてグイグイ飲んでる人は一人もいません。グラスの端っこにちょっと口をつけて、 舐めるようにちびちび飲んでいます。そんな飲み方をしてみると、 この飲み物の美味しさにハッと気付くはずです。のんびりとした気分でたっぷりと カントリーサイドの空気を吸ったあとであればなおさらのことでしょう。こうして夏の陽はゆっくりと暮れてゆくのです。
こんな夕暮れ時も、9月下旬にもなるとすっかり陽も短くなり、 そしてこんどはリンゴが楽しみな時期となります。なかでもコックスという種類のイングランド産の 小振りなリンゴはすっぱさとさわやかな甘さがワイルドかつ絶妙なバランスで、これが本当のリンゴだな、 と唸りたくなるような味わいなのです。このコックス、耳の近くで振ってみると微かにからから という音が鳴るのが聞こえます。このリンゴには芯の部分がほとんどなく、まん中の小さな空間に種がいくつか 入っていて、それがからからと鳴るわけです。抜群な味だけではなくそんなところもなかなか チャーミングなコックスです。どうです?秋にはコックスを食べにイングランドへ出掛けてみませんか。
※ベッドアンド ブレックファーストの略。日本でいうと民宿やペンションのような宿泊施設。 老夫婦が空いた子供部屋を使って、あるいは大きなファームで昔は使用人が住んでいたコテージを使って客を泊める。
